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もっともわかりやすい西洋哲学史 ⑨. 大陸合理論 (スピノザ) [哲学・思想]

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  つづきです。

  デカルトのあと、道は 「大陸合理論 ( デカルト ⇒ スピノザ
⇒ ライプニッツ ⇒ )」 と 「イギリス経験論 ( ロック ⇒ バークリ ⇒
ヒューム ⇒ )」 の2つに分かれ、それをカントが統一します。

  カントのあとは ( ⇒ カント ⇒ フィヒテ ⇒ シェリング ⇒ ヘーゲル
という流れになります。

 
  さて、前回説明したようにデカルトの哲学は 「精神と
物質」 というハッキリとした二元論でした。

二元論というのは、何かを説明する場合に非常に便
利なやり方で、私たち自身二元論的思考に慣れきって
います。 上⇔下、男⇔女、プラス⇔マイナス、善⇔悪

  しかし、根本的なことを目指す哲学においては、どう
しても二元論では気がすまないというか、2つを統一し
た理論、なるべく単純な理論を求める傾向があります。

  これは、哲学から派生した現代科学においても同様
ですね。

  アインシュタインが最後まで量子論を認めなかったの
も、「神がそんな確率が混ざっているような、そんなやや
こしい理論でこの宇宙を創るはずがない」 というのが理
由でした。

  アイン博士曰く 「神はサイコロを振らない」

  そういう博士の相対性理論は、「E=mc2」 (2⇒自乗)
という、確かに美しくて単純な公式です。


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  この式はとても有名ですが、この式が結局なにを意味
しているのかという説明はあまりなされません。

  E はエネルギー、m は質量、c は光速を表しています
が、この式は、エネルギーと物質と光、これら3つは突き
詰めれば同じものだということを言っています。

  エネルギーと物質が同じものだというのはまだわかり
ますが、光と物質が同じものだというのはあまりピンとき
ません。

  しかしビックバン直後の、場のエネルギーが激烈に高い
状態においては、じっさいに物質が光(光子)になったり光
がニュートリノになったりという反応が起こっていたのです。

  まさに神の領域にかすっている話です。


  もとに戻ります。

  そういうワケで、デカルトのあとしばらくは、デカルト二
元論を乗り越えるための哲学がつづきます。

ただ、デカルトの哲学は、そのあとの道が二股に分か
れてしまうほどに影響が大きかったというコトでもあります。


 デカルト (1589 ~1650)   スピノザ (1632 ~1677)
 ライプニッツ (1646 ~1716)   ロック (1632 ~1704)
 バークリ (1685 ~1753)   ヒューム (1711 ~1776)


 【 大陸合理論 】

  合理論とはというのは、①. 人間の理性を重視し、信頼
する考え方をいい、②. 1つの絶対的な原理から始まる演
繹的な哲学であるという特徴があります。

 《 演繹 と 帰納 》

  ものごとを考える際の道すじ、方法。 演繹と帰納は対
義語にあたります。

  演繹とは、はじめに抽象度の高い結論を立てて、そこ
から個々・具体的なコトを推論するやり方。 哲学者の多
くはコチラを好みます。 三段論法が典型的。

生物-哺乳類-人間-男性-白人-イギリス人-キリスト教徒  
          ( 抽象度・高  ⇔  低い )
 「生物には寿命がある」 ならば 「イギリス人にも寿命がある」

 「人には寿命がある」 「トムは人間である」 「トムには寿命がある」
           ( 三段論法 ) 

  コレに対して帰納とは、抽象度の低い事実を積み重ね
て結論を推論するやり方。 刑事ドラマにおけるホシの割り
出し方が典型です。

  どちらにも一長一短あって、演繹の短所は融通がきかな
いというところにあります。 立てた前提とほんの少しでも異
なっているトコロがあるとそれを否定しなければなりません。

  例えば、「鳥は空を飛ぶ」 という前提を立てた場合、ニワ
トリは鳥ではないということになってしまいます。

  一方で帰納の短所は、前提をいくら立てても確実な真理
には到達できないということ。

  しかし、帰納法は非常に有益な場合も多く、統計学の考
え方は帰納法に基づいていると思います。

  例えば、関東地方の視聴率を調べる場合、ビデオリサー
チが関東地方の中から無作為に選んだ家庭に機械を置か
せてもらって調べるそうなのですが、そのサンプルはたった
200 軒でイイそうです。

  200 という数は、関東地方の世帯数がどれだけ増えて
も変わりません。 そして、これは実験で確かめることがで
きます。

  まず、巨大な透明の水槽に白いピンポン球を8000個入
れます。 そして、それに加えて2000個の赤いピンポン球を
入れ、よくかき混ぜます。

そうすると、1000個のピンポン球のうち 2 割が赤い球と
いうことになります。

  そして、この10000の球の中からバケツで50個を取り出
してみる。それを何度もくり返す。 すると毎回のバラツキが
非常に多い。 50 個のうち、赤が1 割のときもあれば赤が3
割のときもある。

  次に、100個すくってみる。 それを何度もくり返す。 する
と、50 個のときよりもバラツキの幅が狭くなった。

  150個にすると、もっとバラツキが狭くなった。

ここから先は160. 170. 180 というふうに10個ずつ増や
していく。

  すると、すくい取る数を200個まで増やしたところでバラ
ツキがほぼなくなり、何回すくっても赤い球が約40個になる。
これは、母体を3万にしても10万にしても同じになります。 

実験終了。
 

 《 スピノザ 》 (1632 ~1677)

 バールーフ・デ・スピノザは、当時のヨーロッパ最大の貿
易港で、かつ最先端の場所でもあるオランダの裕福なユダ
ヤ人の家庭に生まれました。

  初等教育のみを受け、その後は家事を手伝うために大学
へは進むことなく独自に聖書や哲学、歴史、政治などの研究
をなした人です。

そして、生涯アカデミックな学者タイプではなく、市井の研
究者・著作家として活動しました。


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  高等教育を受けなかった彼は、既成の概念に捉われるこ
となく、聖書の解釈などにおいても従来にはないような批判
的な読み方ができたようです。

  スピノザこそが歴史上初めてキリスト教と聖書を真っ向か
ら批判した哲学者だと言われていますが、この時代になると、
キリスト教にも批判されても仕方がない部分が多く見られ、
形骸化が進んでいたのだと思います。

  そのため、その言動によって周囲から批判や誤解を多く受
けたようで、20代半にはユダヤ教から破門されてしまいました。

  その後も、政治など多方面における研究、執筆活動を続け
ましたが、やがて、著書の内容から 「無神論」 だとしてキリス
ト教からも非難を浴びてしまいました。 

  このように、生前においては彼を批判する声が多かったよ
うで、のちに、彼の書いた本が発禁処分を受けることもありま
した。

  しかし、一方では彼を評価する声もあって、大学での教授
を依頼されることもあったのですが、自分の思索内容が制限
されることを恐れた彼は、そのを依頼を断ります。

  そして、その後も執筆家として過ごましたが、やがて 44 歳
で短い生涯を終えました。 


  ということで、現在のスピノザの名声は彼の没後に形成さ
れたものです。

  没後100年近く経過した頃、カント(1724~1804) がスピノ
ザを評価したのをきっかけに、それ以降彼を再評価する向き
が高まっていったようです。

  その後、かの大御所ヘーゲル(1770~1831)が、彼をこれ
以上ないほどに高く評価し、それによって彼に対する高い評
価が完全に定着します。。

  ヘーゲル曰く、「スピノザは近代哲学の要点である。 スピ
ノザ主義か、いかなる哲学でもないかどちらかである」 「あら
ゆる哲学的思索の本質的資源」 なのだそうです。

フォイエルバッハもスピノザを 「近代の自由思想化と
唯物論者たちのモーゼである」 と評価しています。


  スピノザの哲学は、単純な言い方をすれば 「汎神論」 だ
といえます。

  デカルトとの関係でいえば、デカルトの二元論をもっと厳密
にするため、あるいは、デカルトの道をさらに奥まで進むこと
でデカルト路線を徹底させたのがスピノザの一元論であるとい
えます。

  しかしニュアンスとしては、“二元論を統一した” というよ
りも、「神」 の名において両者をまるごと包み込んだという感
じです。

スピノザからみれば、デカルト論にはなおあいまいな部分
があるように思えました。

  厳密さを求めたスピノザの難解な主著 『エチカ』 は、ユー
クリッドの 『数学言論』 を模して 「定義-公理-定理-証明
-系」 という数学書の体系で書かれています。


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  彼はその中で、「実体」 を次のように定義します。

  『 実体とは、それ自身のうちに在り、かつ、それ自身によっ
て考えられるもの、言いかえれば、その概念を形成するのに
他のものの概念を必要としないもの解する 』

  これは、デカルトが 「明晰判明な直感」 によって得たもの
を、スピノザが言葉と論理によって厳密に定義しなおしたとい
うことになります。

  なおかつ、スピノザはこの定義によって遠まわしにデカル
トを否定しています。

  デカルトによれば、人間の精神が自然を理解できるのは、
精神が神から与えられたことによっています。 また、私たちの
精神には 「自然の光」 が宿っているからであるともいいます。

  この説明は、精神という実体を説明するために、もう1つの
実体(神)を用いています。 これは、もう一方の自然について
説明する場合も同様です。

  もうお分かりのとおり、これはスピノザの実体についての定
義からすれば NG 。

  これに対してスピノザは、自ら立てた定義にのっとって 「実
体=神」 、唯一 「神」 のみであるとします。

  また、デカルトにおいては、精神と物質(自然)という2つの
異なった実体がどのように関わりあっているのか、なぜ精神が
自然を理解することができるのか、という点について厳密には
説明されていません。

  この疑問についてもスピノザは、両者は結局同じものなの
だ、私たちも自然も神の一部であって、「思惟も延長も神の属
性なのだ」 とします。

  このように言われてみると、確かにスピノザによる批判の方
が的を得ているような気もします。 感覚的に言って、精神や自
然よりもやはり「神」の方がより根源的な概念のように思えるか
らです。

  また、スピノザの実体の定義に従えば、普通に考えて 「神」
以外にはありえないという結果になるでしょう。


  ・・・・・・ さて、このように、根っからのキリスト教信者が語
る 「神」 の概念や 「神」 の名が出てくる議論については、じ
つは僕自身、正直いってどう判断し評価すればイイのかわか
りません。

  もっと正直に言ってしまうと、神をもちだすのはちょっとズル
イだろ、という気もします。

  理解しがたいことについて 「神」 の一言で片付けてしまっ
たら、それこそ “何でもあり” になってしまうだろ。

  ・・・・・・ しかし、このような批判はきっと浅はかすぎるのだ
と思います。 なので 「神」 の概念が含まれる議論は、知識と
して 「知る」 だけであきらめましょう。

  ただ、このような汎神論的な考え方は、人格神を標榜して
いるユダヤ-キリスト教からすれば認めることはできないと
ころがあると思われます。


  とにかく、スピノザが言うには 「人間精神も自然も含めてす
べてが神」 「万物はすべて神の属性が “必然的に” 生み出し
た様態である」 なのです(『必然的に』 に留意してください)。

  一般的に、このような考え方を 「アニミズム(精霊崇拝)」 と
いいます。 人間精神の発達史でいうと、精霊崇拝は、教義宗
教よりも前の段階に位置しています。 魔術や呪術もここに含ま
れます。

  また、日本の神道もアニミズムに含まれますが、いちばん
わかり易いのは宮崎駿監督の 『もののけ姫』 です。 あれこ
そまさにアニミズム。


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(※) 宮崎駿論はこちら (興味のある方はお読みください)
http://perfect-news.blog.so-net.ne.jp/2013-09-20


ただ、気をつけたいのは、スピノザの言う 「神」 はこの世界
を越えた、超越的な神、またプラトン的な神ではありません。

  「この世界=自然=神」 という、あくまでもこの世界にとどま
った自然主義的唯物論なのです。

  そして、スピノザ哲学のもう1つの特徴として 「決定論、あ
るいは運命論」 的である、また、その哲学には歴史という観
念が存在しない、ということがあります。

彼は、この世界に偶然というものは存在しない、すべてが
永遠の相の中であらかじめ決定されているといいます。

  神は必然的にこの世界を生み出した。 もし、この世界が
偶然に支配されているならば、私たちがこの世界の真理を
認識することはできないであろう。 すべてが必然であるから
こそ私たちは真理に到達できるのだ。
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このように主張するスピノザは、さらに人間の自由意志を
も否定しました。 この辺の感覚はまさにキリスト教的なところ
です。

  また、もしもスピノザが現在に生きていたとしたら、アインシ
ュタインと同じように量子論を否定していたことでしょう。


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以上のようにスピノザの哲学は、永遠の相においてあらかじ
め定まっている真理を明るみに出し、数学のように証明してい
く作業であったということです。

スピノザについては以上です。

  次回は、スピノザとは対照的な生き方をしたライプニッツ
について。





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