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もっともわかりやすい西洋哲学史 ⑤. 古代末期~中世の哲学 (上) [哲学・思想]

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  それではつづきです。

  ⑤ と ⑥ では、アリストテレス没 ~ デカルト登場までの
1900 年間を扱います。

  西洋哲学史の中で、この期間、つまり古代末期と中世に
おいては、それほど思想的な進歩はみられませんでした。

  よって、この期間は間奏曲であると言ってもよく、アリスト
テレスによって完成した古代哲学が、この期間どのように維
持され近代へと受け継がれていったのかという話になります。

  はじめに、この期間の歴史を確認しておきましょう。

  アリストテレスと同時代のアレクサンドロスによる東方遠
征によってアジア各地にギリシア文化が移植され、ヘレニズ
ム文化が生まれます。

  古代オリエントとギリシアの文化が融合することにより東
方で新しい思想が誕生し、それはやがてキリスト教に大き
な影響を与えることになります。

  紀元30年頃、キリスト教が成立。 ローマ帝国は始めキリ
スト教を禁止しましたが、やがて方針を転換し、325年 キリ
スト教はローマ帝国の国教になります。

  その後395年、ローマ帝国が東西に分裂。 この前後から、
帝国にゲルマン民族の侵入が始まります。


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  ゲルマンによって帝国は蹂躙され、476年、ついに西ロ
ーマ帝国が滅亡。

  これ以降、ルネサンスに至るまでの1000年間、ヨーロッ
パは長い長い 「暗黒時代」 を迎えることになります。


  一方、ギリシア・ポリスの衰退後、プラトン-アリストテレ
スなど古代ギリシアの知的遺産は、プトレマイオス朝エジ
プト、アレクサンドリアの図書館に保存されました。

  この図書館は、世界中の文献を収集する目的で紀元前
300年頃プトレマイオス1世によって設立されたもので、文
学・地理学・数学・天文学・医学など、あらゆる分野の書物
が集められました。

  学問センターとしても機能したこの図書館には、 エウク
レイデス(ユークリッド)、プトレマイオス、アルキメデスをは
じめ各地から著名な学者が集まり、ヘレニズム文化におけ
る学術研究センターとして大きな役割を果たしました。

  ここにおける学術的な成果は、後の近代科学の誕生にも
大きく貢献することになります。

  その後、エジプトがイスラム勢力に征服されたことにより、
それ以降、古代ギリシアの知的遺産はイスラム勢力圏の中
で保存されていました。

  12世紀、十字軍によってヨーロッパがイスラム世界と接触
したことによって、イスラム圏内で保存されていたギリシアの
学問がヨーロッパに逆輸入されます。

  それによって刺激を受けたヨーロッパでは大学が設立され
るようになり、ルネサンスへと向かっていきます。


   ヨーロッパの地において中世をとおして古代以来の知的
伝統を受け継ぎ維持してきたのはキリスト教、特に修道院
でした。

  非常に長い期間にわたって古代の遺産を維持することが
できたのは、プラトン-アリストテレスの絶対的なものを追求
する思想が、そのまま 「神の存在証明」 として流用できたと
いうのが1つの理由になっています。


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  それでは、元に戻って説明していきます。

【 エピクロスとストア 】

  アリストテレス亡き後、歴史はヘレニズムからローマ帝国の
時代となりますが、この頃の4大哲学として、エピクロス派、ス
トア派、アカメデイア学派(プラトン派)、逍遙学派(アリストテレ
ス派)があります。

  このうちエピクロスとストアの思想においては、特徴として
個人の生き方に目が向けられました。

  エピクロス(BC342~271)は、「快楽主義」 を唱えたヘレニ
ズム期の哲学者です。


快楽主~1.JPG


  その哲学の主題は、いかにして個人の心を乱すさまざまな
原因を取り除きうるか、ということでした。

  世界観においてはデモクリトスの原子論を受け継いでおり、
エピクロスによれば、死とは、魂をつくっている原子がただ離
散するだけであり、なんら悪いことでも恐れることでもないとさ
れます。

 また、神というのは最も小さい原子である。 よって、神はこの
世の事柄と無関係であるとされました。

  彼は、私たちの心を乱すさまざまな考えは 「臆見(ドクサ)」
なのであり、それらの誤った考えに対して事の正しい真相を伝
えることにより私たちの心に平安をもたらそうとしました。
 
  また、「死は我われにとって無関係でである。 なぜなら、我
われが現存するときは死は現存せず、死が現存するときは我
われは現存しないからである」 とも言います。

  このように言うエピクロスは 「快楽の哲学者」 といわれます。

  彼は、私たちの心を死や神という恐怖から解放し魂に平安
をもたらそうとしましたが、それは 「隠遁者風の快楽」 であり、
現実否定でもありました。

 エピクロスのいう心の平安な状態を 「アタラクシア」 といいます。


さて、一方のストア派ですが、こちらはヘレニズム期からロー
マ帝政期に至るまで長い歴史をもち、ローマ帝国の一般的道徳
となった哲学です。

  ストア派は前3世紀はじめ、キティオンのゼノンによって始ま
った学派。

ゼノンはエピクロス派とは異なり、アテナイのアゴラ(中央広場)
を見晴らす柱廊(ストア・ポイキレ)において教授したことによりこ
う呼ばれています。


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  ストア派では倫理学を重んじられ、その禁欲的な考え方は
ストイックの語源でもあります。

  彼らにとって哲学とは、単に信念や倫理的な観念ではなく、
持続的な実践と鍛錬をともなう 「生き方」 を意味しています。

   目指すべき 「生き方」 は、「理性に従って生きること」 であ
るとされましたが、 彼らによれば 「理性」 とは 「自然の摂理
(ロゴス)を理解すること」 を意味していました。

  理性に従うことによって 「情動」 から解放され(=苦痛から逃
れ)、アパテイア(心の平安)の境地に至ることが目標であるとさ
れ、このあたりにエピクロスとの共通性がみられます。

  また、ストア派は人間と自然を同視し、すべての人間は同じ
で平等であるという世界市民主義(コスモポリタニズム)の発想
を持ち、人間の兄弟愛と全人類の本性的平等を称揚しました。

  ストア派の哲学は、主にローマ帝国の支配階級に信奉され
ましたが、彼らは基本的に戦士であり、このような禁欲を重ん
じる態度は、鎌倉時代以降の日本の武士階級のあいだで禅宗
が信奉されたのと似たところがあるのではないでしょうか。

  ストア派の世界市民主義はローマ市民権やローマ帝国の領
域拡大に対応していたという限界があり、平等思想についても、
当時が奴隷制であったことを考えると、今日における平等思想
とは根本的に異なっている点には注意が必要です。



【 グノーシス主義 と 新プラトン主義 】

  エピクロス派とストア派の世界観はソクラテス以前のイオニ
ア自然学の考え方とよく似ており、合理主義的なものでした。

  一方、ローマ帝国が全盛期の光を失っていった紀元1世紀
~2世紀のストア派後期の頃、東方からグノーシス主義と呼ば
れる神秘主義思想が伝わってきます。

  この時期に帝国内で急速広がりつつあったにキリスト教は、
新しく入ってきたグノーシス主義に大きな影響を受けることに
なりました。

  初期キリスト教最大の異端として知られるグノーシス主義
ですが、キリスト教の教理はグノーシスとの闘争のうちに作ら
れたといっても過言ではありません。


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  グノーシス主義の思想は善悪二元論に基づくもので、矛盾
や悲惨がはびこるこの世界を 「悪」 と規定し、そこから逃れる
ため霊的な存在として神との合一を目指すという神秘的なもの。

  その起源は古く、これよりも数百年前、古代オリエントのさま
ざまな宗教とギリシア哲学が融合することで生まれた思想だと
言われています。


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  これら グノーシス主義やキリスト教のような神秘的なものを、
ギリシア哲学の用語とロゴスという方法によって合理化しようと
したのが新プラトン主義です。

 エジプトのプロティノス(204~269)によって始められた新プ
ラトン主義は、いわば最後のギリシア哲学であると言えます。

 プロティノスは、この世界に根拠を与えている神的な存在を
「一者」 と呼びますが、これはプラトンの 「善のイデア」 を発展
させたもの。

  万物は 「一者」 から泉が湧き出るように絶えず 「流出」 して
いるとされます。

  万物は 「一者」 から出て 「一者」 へ帰ろうとしますが、「善
のイデア」 と同じく私たちはそこに到達することはできず、近づ
きうるのみであるとされます。

 直接に接触することはできませんが、「ヌース(理性・叡智)」
をとおして私たちの魂と 「一者」 はつながることができるとされ
ます。


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  ヌースは、ギリシア哲学におけるロゴス、キリスト教における
精霊と同じような存在であると考えることができます。

  この 「私たちの魂-ヌース-一者」 という考え方は、キリスト
教の三位一体論の成立に大きな影響を与えたとされています。

  このように、ロゴス的な説明がなされる新プラトン主義ですが、
この哲学もまた強烈な現実否定に貫かれており、目指したのは
自己を脱して(エクスタシス) 「一者」 と合一することでした。


     20131024.jpg





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