SSブログ

日本ドラマ30年史 vol.4 [テレビドラマ]

スポンサーリンク




 それではつづきです。

 この文章はドラマの歴史に関するものですが、80年代以降のフジテ
レビのドラマの人気をより深く理解できるように、その前提として、ここ
からしばらくは、戦後日本の文化の移り変わりについて書きます。

 これは個人的な考えなのですが、戦後の日本文化は、80年代前半を
境い目として、それ以前と以降に分けることができると思っています。

 以前の文化は、言ってみれば 「サザエさん文化」。

 家庭の特徴で言うと、各家が 「~家」 というイメージを持ち(場合によっ
ては3世代を含めた)、家族が1つのハッキリとしたまとまりとして存在し、
家族みんなが共通の関心事をもち、ごはんを家族全員で食べ、家族全
員で1つのテレビ番組を見て、子供たちは個人の部屋を持っていない場
合が多い。

 ちびまる子の家のイメージでもいい。 週の唯一の休日日曜日には家
族そろって電車で都会まで行き、デパートで買い物。 昼食は7階の食堂
で食券を買って注文し、子供はゼリーの容器で型をとったミニオムライス
に国旗の刺さっているお子様ランチを食べる。

 もう少し広く言うと、老若男女・国民全てが同じものに関心を抱けた時
代。 テレビ放送は午前1時頃には終了していた時代。 パソコンもビデオ
もなくてCDではなくレコードを聴いていた時代。 ウォークマンがやがて
世に誕生する頃でコンビにというものが存在しなかった黒電話の時代。

 世の中のほとんどの人がダサかった時代。 洋服にある程度気を遣う人
と全く遣わないきもちわる系の人との割合が今とはちょうど逆だった時代。

 本音と建前がハッキリと分かれ、“ぶっちゃけ” 存在しなかった時代。ア
イドルは恋愛などするはずがなく、トイレにもいかないのでは? と思われ
てた時代。 ブッチャーやジェット・シンは本物の悪人でキチガイだと思われ
ていた時代。

 ヒールとベビーフェイス、ボケとツッコミ、トーク、カラミにくい、リアクショ
ン芸などという娯楽の構造のことなど分からずに、「素」 の状態で楽しめ
た時代。 お笑いを見ても “ウマイ” としか思えない今とちがって、心の底
から “面白い” と笑えた時代。 欽ちゃんとドリフターズの時代。

 ・・・・・・ ざっとこんな感じかな?

 こういう感じが、1980年前後の頃から徐々に変化し始め、一定の過
渡期を経た80年代前半になると変化した結果が目に見えてくるように
なる。

 僕が思うに、境い目以降の文化は 「若者記号文化」 という感じだ。

 新しい時代のイメージは “渋谷公園通り”。 当時青山教会の隣の工事
現場の壁には大きなモナリザが描かれ、その前には日本で初の赤い木
枠の電話ボックスが設置された。 そばには誕生したばかりのPARCOや
少し遅れて再デビューを果たした〇I〇I が立ち並んだ。

 当時、時代を先取りしすぎたと言われていた松田優作の 「探偵物語」。
オープニングテーマが流れる中で松田がうろついているのがこの公園
通りだ。 モナリザ、赤ボックス、松田の3ショットの瞬間がある。

 ココに挙げたものすべてが「記号的」 だ。 記号的とは、それが指し示す
当のモノ以外に、それに伴うイメージなどを同時に思い起こさせるという
性質のことだ。

 公園通り、青山教会、PARCO、109、スペイン坂、センター街、マック

 いつの間にか街には若者の姿しか見られなくなっていた。 イベント会
場も同じ。

 世の中は個人的になり、細分化されていった。 この流れはやがて “オン
リーワン” という発想につながっていくが、それはまだ先の話。

 ここでまとめると、新しい時代には、3つほど特徴があると思う。 ①.世
の中が記号的、イメージ的になってきたこと ②.世の中の個人化、細分
化が進んだこと ③.人々や世の中がぶっちゃけ的になってきたこと

 まず、③ に関連して、ある人の話をしよう。

 ビートたけしという人がいる。 大物中の大物だ。 しかしいつの頃からか
すっかり落ち着いてしまい、今となっては 「顔のゆがんだ、むかし面白か
った人のイイおじさん」 みたいになってしまっている。 おそらく今の人は、
氏が何ゆえ偉大なのかというコトが分かっていないと思われる。

 ビートたけしはなぜ偉大なのか?

 それは、氏が80年代全般にわたって最前線に立って新しい未踏の時
代を切り開いてきたからである。

 どういうことか?

 たとえば、上でも少し触れたが、昔のアイドルと今のアイドルは明らか
にちがう。 今のアイドルは何もかもぶっちゃけている。 つまり、私は仕事
としてアイドルというモノをやっているというスタンスを最初から表に見せ、
「昔は言っちゃいけなかったみたいですけど、アイドルだってそりゃあ恋愛
もしますよぉ。 おまり大っぴらには言うなって事務所には言われてるんで
すけどぉ」 というようなコトを平気で言ってしまう。

 それでは、この移り変わりは具体的には誰の頃なのか?

 それはズバリ中森明菜の頃である。

 以前、熱湯コマーシャルで有名な 「スーパージョッキー」 という日曜昼
間の番組があった。 この番組のごく初期の頃、全盛期で飛ぶ鳥を落と
す勢いの中森明菜がメインゲストで出演したことがある。

 当時のアイドルは、いまだ昔の雰囲気を保っていた。 明菜も当時は明
らかにキャラを作っていて、口数が少なくクールな感じで、話すときも低い
声で話していた。

 また、当時のビートたけしは現在とは全く雰囲気がちがう。 なんという
か、何を言い出すかわからない、とても危険なムードを持っていた。 態
度そのものも今よりももっと不良っぽいというか斜に構えたというか色気
があったというか。

 そんなたけしが明菜に質問をする。 「今回はゲストに来ていただいてあ
りがとうございます。 どうですこの番組は? たまに見ることありますか?」

 「ええ、とても面白くて、いつも見ています」

 間髪いれずにたけしが 「なにそれ。 そんなのウソでしょ? え? 事務
所にそう言えっていわれたの?」 と、いかにもイジワルな感じで早口で
突っこむ。

 一瞬にして凍りつくスタジオの観客。 その場に鋭い空気が充満する。

 いちばん驚いているのは明菜だ。 え?うそ?どうして?何言ってるの?
顔がマジになっている。 とっさに対応できない明菜。 あ、イヤ、あの ・・・・ 

 当時はまだ、このたけしのようなやり方は普通はありえなかった。 本来
はやってはいけないコトだった。 まだ時代がそうだったのだ。

 今のアイドルであれば 「いや~、じつはそうなんですよ~ ・・・・ って、
なんでやねん ! 」 くらいの受け答えができるかもしれない。

 でもこれは、たけしが先頭に立って変えてきたからこそ今のアイドルが
言えるようになったということだ。

 当時のたけしは、自分のこの役割を自覚していたと思う。 「自分が時代
を変えるんだ。 俺がやらなきゃ、他の誰にこれができるんだ」 と思ってい
たと思う。

 たけし氏が変えてきたことはもちろんこれだけではないと思うが、全体
的従来言ってはいけないコトを言ってしまってきた、やってはいけないコト
をやってしまってきた、言ってしまいやってしまうコトで既成事実を作って
きた、というところがあると思う。

 こういう役割というのは誰でもができることではないし、誰でもがやりた
がるコトでもない。 しかしたけし氏はやってきたということだ。

 これは時代の感覚、世の中の人々の感覚に関することなので、たけし
氏がやったことは記録には残らない。 それゆえに今の人たちにも伝わ
っていないのかもしれない。

 大幅にスケールダウンするが、明石屋さんまも1つだけ同じようなことを
やった。 エッチという表現を使うことで、日常会話の中で性行為について
話すことを “あり” にしたということだ。


 vol.5 につづきます




スポンサーリンク<br />


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:テレビ

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。